絵巻物に巻かれて・・・ [art]
近所の集会場で 「絵巻物・ワヤンべベルとパントマイム」 の公演があって、行ってみました。
バリ伝統芸能と言えば、影絵・ワヤンクリによる 「ラーマーヤナ」 についてご存知の方は
多いと思います。 「ラーマーヤナ」は本格的に演じると5時間くらいかかる膨大な物語だと
聞いたことがあります。
今回は、本当にご近所の小さな集会所で、1時間半の公演ですから、プリアタン王宮で開かれる
ような盛大な催しとは違い、子供に見せる人形劇? …くらいの軽い気持ちで参加しました。
ところが、ところが・・・ その芸術性と完成度の高さに、びっくり仰天です。
事前に日本語のあらすじ書きが配られたので、インドネシア語の分からない旅行者向けの
サービスだと思い、言葉の分からない芝居を見る心の準備を整えていました。
そうそう、歌舞伎を見る外国人みたいなものです。
で、耳に入ってきたのは、いきなり日本語の「語り」ではありませんか。「え?」と思う間もなく
どんどん物語は展開していきます。 10本あまりの絵巻物が開かれ、活劇の弁士?のごとく
…いや、いや、もっと高尚な表現に満ちた日本語、インドネシア語、身ぶり手ぶりが巧みに
織り込まれていて、どんどん語りの世界に引き込まれていき、1時間半、一気に瞬きもできない
くらいにのめりこんで聞き入ってしまったんです。
いや~、凄いものを見てしまいましたよ。
物語は、魔神の企みにより悪王と化したプルサダ王と、如来の生まれ変わりであるスタソーマ王との
対決。それによって明かされる生命と大自然の神秘。 中世ジャワの叙事詩「スタソーマ物語」 です。
この絵巻物は、実は影絵ワヤンクリや人形劇より古くからあり、その後、華やかなワヤンクリに
押されて影を潜めていが、バリ人芸術家の手による絵巻と、日本人バリ舞踊家・小谷野哲郎氏
によって再現されたもので、あのインドネシア語・日本語・語り・パントマイムを駆使した表現を
確立したのは唯一、小谷野哲郎氏ただ一人であるということを知りました。
何も知らずに観劇しただけで、小谷野氏の芸歴と研究の深さ、バリという土地に深く根を張った
生き様そのものが伝わり圧倒されたのですが、観劇後に小谷野氏のことを知り、更に世界が
広がりました。そして絵巻を描かれた画家夫人もまた日本女性で、この地に溶け込み、
文化的貢献の地道な活動を続けておられることへの尊敬の念で胸がいっぱいになりました。
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